博物図譜『ポーキモン珍獣図譜あるいは隠されたる秘境の動物の記録』より挿絵 18cイギリス・ロンドン
今回ご紹介するのは『ポーキモン珍獣図譜或いは隠されたる秘境の動物の記録』である。
これはイギリス王ジョージ3世に献上された博物図譜であるが(下は挿絵の一つ)、ポーキモンという男が未知のアジアの土地を探検し、そこに住む珍獣を記録したものであると言われている。
しかし、図譜に描かれた動物達は現代から見ると荒唐無稽な生物ばかりであり、全てが架空の動物であると見られている。
挿絵にしても、このような生物の存在は確認されていない。ただ、ポーキモンの空想だとも言い切れず、折れ曲がった針金のような奇妙な尻尾の形状からして、おそらく「何かの細工がなされた動物のはく製」を「本当にその動物が存在している」と思い込み、生きているように描いたのではないかとの推測も成り立つ。
しかし、何故、このような奇妙な図譜が生まれたのであろうか? それは、当時のイギリス国王の置かれた状況が関係している。この時代、アメリカがイギリスから独立し、王室の威信が低下しており、それを乗り越える手段の一つが「博物学による珍品の蒐集」だったのである。
博物学は自然界の全ての事物を蒐集、分類する学問であるが、科学的興味の他に支配欲も密接にかかわっていた。ヨーロッパが植民地を拡大する中、王室のコレクションはまさに「己が世界をどれだけ支配しているか」の分かりやすい指標ともなっていたのである。すなわち、辺境の生物であればあるほどよく、また、どの王室も持っていない珍獣であればなおよかった。ただ、博物学による「万物の王」を目指した結果、空想の動物図鑑が出来てしまったのであるが、これはまさに歴史のあだ花と言えよう。