洞田創研究室

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民話:虎衛門狸(とらえもんたぬき)※画像なし

『聞集夜落葉(ききあつめよるのおちば)』(文化三年)より抜粋

 

今は昔、武蔵国は練馬に野比伸太というそれは貧しい侍が住んでおったそうな。この伸太、心は優しいがとんだ臆病者で、領地は取られるわ笑いものにされるわで大層な苦労をしておったんじゃと。伸太は信心が深く、常日頃から仏様をおがんでおったんじゃが、ある夜、枕元に仏様が現れ、「お前は前世の因果によって貧しいのだが、あまりにもかわいそうだ。ここはひとつ助けてやろう」というと、ある場所を示して、そこを掘れとおっしゃったそうな。目覚めた伸太が急いでお告げの場所を掘ると、果たして唐櫃が出てきたそうな。仏様のお告げじゃから金銀財宝が入っているのじゃろうと、喜び勇んで開けると、中からは金銀どころか青い大きな狸が、にゅっと現れたそうな。驚いて腰を抜かす伸太に対し、その狸が言うには「わしは坂東狸の長、虎衛門である。後世の者なのだが、わしを捕えし猟師が、わしに通力あるのを知って、一族の困窮の元である先租伸太の立身を助けよといって放したので、その言葉に従ってここにきたのである」とのことだったそうな。

さて、伸太は源氏の姫静香に想いを寄せておった。この静香姫は三国一の美人と言われ、その玉のような美貌に多くの求婚者がおったんじゃと。その中でも大侍の剛田と長者の骨川は特に熱心だったんじゃが、虎衛門狸はこの二人には敵わぬとあきらめておった伸太を励まし、歌を送らせ、とうとう静香の気を引くことに成功したそうな。

 

ひとさわぐ里に静か(静香)ににほひたつ垣根の奥の花ぞさくらむ

眺めやる原に煙の立つ見えて心を焦がす野火(野比)もあるとは

 

そして、伸太は静香の元に通う事になったのじゃが、それで収まらぬのは剛田と骨川。二人は道々で伸太の邪魔をして、通えないようにしたそうな。すると虎衛門狸は戸口を作ってこれを桃色に塗り、通力をかけたんじゃと。そして伸太にこの戸をくぐらせると、アラ不思議。そこは静香の屋敷だったそうな。

こうしてこの戸口を使いこっそり通っていたのじゃが、ある時にそのことが剛田と骨川の耳に入ったんじゃと。そして怒った二人が家来を引き連れとうとう伸太の屋敷を囲んだそうな。たまらず伸太が虎衛門狸に泣きつくと、虎衛門は大きく腹鼓を打ったそうな。すると腹が裂けてそこから大筒が出てきたんじゃと。そして、それを敵に打ち込むと、これにはさすがの剛田も骨川も逃げ去ったそうな。

かくして伸太は静香と結婚し、その子孫は富栄えたそうな。

とっぱらりんのふう。