今回ご紹介するのは、浮世絵『鏡写当世婦人心裏(カガミウツシトウセイフジンノココロノウチ)』である。これ は、魔法の?鏡を当てるとその心が鏡に映って明らかになる、という趣向の物で、人の心の裡を覗くというのは趣味の良いものではないが、男も女も「異性が何 を考えているのか?」というのは昔からの関心ごとだったのであろう。
さて、この絵は従来「恋人あるいは夫が男色に夢中になっていて困っている女性」という解釈がなされていたが、最近になって、本を読んでいるのでなく書いているように見えることから、「男色の物語を執筆中の女性」であるという解釈がなされるようになった。
これは、最近発見された歌「あはれかな心も身をも腐るらむ人の恋路にまどはされては」と合わせて江戸時代の風俗を知る一つの手がかりになるであろう。
江戸時代には公に刊行された本の他に、私的に作って仲間内で読みあう本があり、これは薄本(はくほん)と呼ばれていた。同人的な冊子であるので、ページ数も少なく文字どおり「薄い本」であるのだが、件の女性はこの薄本を作っているのではないかとされている。