草双紙『新成九十九神 目出度白背(しんなりつくもがみめでたきしらせ)』より挿絵 19c日本・東京
(発表 2014.5)
今回ご紹介するのは、『新成九十九神 目出度白背(シンナリツクモガミ メデタキシラセ)』である。
これは、江戸後期に甲斐南楠(カイナンクス)によってかかれた草双紙(クサゾウシ)であり、本作はその一ページであるが、目を引くのは何といっても画面におさまり切らないほどの巨大な武者の姿であろう。
本文によると、これは石定玄堂(イシサダゲンドウ)という妖術使い(左の人物)が『依婆ヶ鎧(エバガヨロイ)』から作り出した”つくも神”だということである。
『目出度白背』は、主人公の新路郎がこうした巨大なつくも神を操って敵を倒す冒険活劇であり、その荒唐無稽な内容が好評を博していたのであるが、天保改革のあおりを受けて、未完に終わった作品である。
また、その暫定的な最後は、登場人物が一人一人新路郎の前に立ちあらわれ「おめでたや/\」と寿ぎ舞い踊る、という唐突なシーンとなっており、改革を皮肉ったものだとされているものの、確証はなく、研究者の間で意見が分かれている。
なお、このシリーズは非常に人気があったため、天保改革後には続編や新編を新たに作る動きがあったようであるが、幕末の動乱のためか完成することはなかったようである。